2度目の値上げ交渉、失敗した後にやること
2023年に値上げを承認された企業が、2024年の2度目の値上げ交渉に挑んだものの、断られてしまった事例についてお話しします。このケースを通じて、2度目の値上げ交渉を成功させるためのポイントを探ってみましょう。
値上げ交渉が断られた背景
この事例の企業は、2023年6月に原油高騰や円安を理由に取引先から値上げを承認されました。しかし、2024年には新たに発生した賃上げコストを理由に、再び値上げ交渉を行いましたが、取引先企業から断られる結果となりました。
断られた理由
取引先が値上げを認めなかった理由は次の通りです。
- 2023年時点の値上げが包括的だった
- 取引先企業は、2023年に原油高や円安などのコスト上昇を十分に織り込んで価格改定を承認しており、2024年の値上げ要請を”追加的な負担”と捉えました。
- 賃上げコストは自社都合とみなされた
- 取引先から見れば、賃上げはその企業内での経営判断であり、そのコストを一方的に転嫁することは妥当ではないという意見がありました。
- 交渉の準備不足
- 値上げ交渉を行った企業は、自社の生産性向上やコスト削減の取り組みを十分に示しておらず、説得力を欠いていました。
専門家の視点から見た問題点
中小企業診断士としてこの企業を支援してきた私にとって、準備不足が最大の課題でした。この企業は2023年の値上げ成功に安堵し、賃上げコストを理由に短期間で再度値上げ交渉を行ったのですが、以下の点が問題でした。
- 取引先の視点を考慮していない
- 値上げを受け入れる側の担当者やその上司にとって、合理的な説明が不足していました。
- 交渉材料の欠如
- 賃上げによるコストアップを具体的にどの程度抑えられる努力をしたのか示さなかった。
これでは取引先にとって、単なる”押しつけ”と感じられてしまいます。
断られた後の対処法
失敗後、この企業に私は次のような指導を行いました。
1. 交渉材料の準備
まずは、次回の値上げ交渉のために次のデータを揃えるよう提案しました。
- 賃上げの背景と詳細
- 賃金アップが必要となった理由とその根拠。
- 生産性向上の取り組みと成果
- コストダウンや効率化の努力が具体的にどのように行われ、どの程度の成果が得られたのか。
- 取引先の原価計算への影響
- 自社のコスト増加が取引先の原価構成にどう影響するかを明確にする。
2. 交渉のタイミングを再設定
1回目の値上げから短期間での再交渉は印象を悪くする可能性があるため、少なくとも半年以上の猶予をもって再交渉を計画するようアドバイスしました。
3. 信頼関係の修復
交渉に失敗したとしても、取引先との信頼関係を損ねないことが重要です。そのため、取引先に対して以下の姿勢を示しました。
- 自社の努力を続ける意思。
- 長期的な価格改定の必要性について説明。
- 相手企業の視点を尊重する姿勢。
4. 腰を据えた交渉姿勢
“1回の交渉ですべて解決しようとしない”という基本に立ち返り、段階的に説得していくことを提案しました。
最終的な結果
準備を整えたうえで再交渉を行った結果、取引先企業は交渉のテーブルに戻り、話し合いを進めることができました。このプロセスを通じて、同社は取引先企業からの信頼を回復し、最終的には適切な条件での価格改定を実現しました。
まとめ
2度目の値上げ交渉は難易度が高く、準備不足や短期的な視点では失敗に終わる可能性があります。しかし、以下のポイントを押さえれば成功の可能性を高めることができます。
- 交渉材料を徹底的に準備すること
- タイミングを見極めること
- 取引先との信頼関係を維持すること
- 腰を据えた段階的な交渉を心がけること
これらを踏まえ、中小企業の皆さまが価格転嫁の課題を乗り越えられるよう、今後も支援してまいります。中小企業診断士として、価格転嫁支援や経営改善のご相談をいつでもお待ちしております。