【“見えにくいコスト”はどう交渉する?】A社が実現した納得の価格転嫁とは

前編では、A社が「電気料金」のみを値上げの対象として認められ、水道料金・輸送費・人件費については取引先に受け入れられなかった経緯を紹介しました。

本記事では、A社がそこで諦めずにどのような対応を行い、最終的に「見えにくいコスト」についても価格転嫁を実現していったのかをご紹介します。


“納得感”のあるデータを出せるかがカギ

A社はまず、取引先から「根拠が分からない」「上昇幅が見えない」と指摘されたコストについて、説得力のある資料を整えることから再スタートしました。

そこで私たちは、次のような取り組みを進めました。

● 水道料金:自治体資料と請求書の提示

地元自治体の公式サイトから料金改定のお知らせを引用し、請求書と比較した上昇額を明記。製品1個あたりに換算すると何円の影響があるかも併せて提示しました。

● 輸送費:物流業者の値上げ通知を提示

物流会社からの値上げ通知や過去の請求データを活用し、輸送費の上昇トレンドをグラフ化。さらに、自社での輸送回数やルート、荷姿変更の取り組みまで整理して説明しました。

● 人件費:採用難と昇給実績の説明

最低賃金の推移、求人広告費、社員の定着状況など、可能な限りの情報を整理。新卒採用や定着支援のためにどのような施策を講じているかもまとめ、「合理的な人件費増」であることを示しました。


原価計算に基づいた「影響度」を提示

次に重要だったのが、これらのコストが製品価格にどう影響するかを示すことです。
そこで、原価計算を用いて以下のような図表を作成しました。

  • 製品A:コスト構成比(労務費30%、間接費20%、輸送費15%など)
  • コストごとの単価影響額(たとえば「人件費の上昇で製品1個あたり15円増加」)

こうした具体的な数字があることで、取引先としても社内での説明がしやすくなり、再交渉の準備が整っていきました。


「対話」による交渉の場づくり

A社の社長は、「一方的に申請するのではなく、相談する姿勢を重視したい」と考えました。
そのため、取引先の購買担当者との定期ミーティングを設定し、上記の資料をもとに、相手の反応や質問を聞きながら進めるロールプレイに近い交渉形式を取り入れました。

その結果:

  • 水道料金・輸送費については一部認定
  • 人件費については次回改定時の判断材料として継続検討

という形で、段階的に価格転嫁を実現することができました。


価格転嫁は「一発勝負」ではない

このA社のケースから分かることは、価格転嫁は一度で完了するものではなく、「準備・提案・対話」のサイクルを回していく取り組みであるということです。

中小企業にとって、水道代や人件費といった“相手に見えにくいコスト”こそ、経営に直結する重要な費用です。
それをどう見える化し、原価計算に基づいて伝えるかが、交渉成功のカギとなります。


まとめ:専門家と一緒に「準備力」を高めよう

今回のA社のように、「電気代だけ通ったからそれで終わり」ではなく、継続的に資料を整え、根拠を持って交渉に臨む姿勢が最終的な価格転嫁の実現につながりました。

価格転嫁は、準備が9割です。

  • 「なぜそのコストが上がっているのか?」
  • 「どれだけ製品価格に影響しているのか?」
  • 「どうすれば相手に伝わるか?」

これらを整理するには、中小企業診断士などの専門家の支援が非常に有効です。
経営コンサルタントとして、私たちは中小企業の皆さまの価格転嫁支援と経営改善の伴走者として、これからも力を尽くしていきます。