価格交渉成功事例 その2
長期的視点で安定した取引を目指したC社の取り組み
価格転嫁は、多くの中小企業が抱える課題のひとつです。しかし、目先の利益だけを追い求めると、取引先との関係が不安定になるリスクもあります。今回ご紹介するC社は、短期的な成果に固執せず、長期的な視点に基づいて定期的な交渉の場を確保することで、経営の安定と取引先との信頼関係の維持を実現しました。
C社の背景と長期的交渉の必要性
ここ数年、円安や原油価格の高騰、賃上げの圧力によって、C社の製造コストは増加していました。しかし、幸いにもC社の経営にはまだ少し余力がありました。こうした余力があるうちに将来を見据えた対応をすることで、急激な経営リスクを回避し、長期的に安定した価格転嫁を進めることができると考えました。
中小企業診断士として私が提案したのは、まず製品別原価計算を実施し、製品ごとのコスト構造を明らかにすることです。原価計算により、どの製品が最も高いコストを抱え、またどの部分に効率化の余地があるのかが判明しました。この結果、製品ごとの経営効率化に向けたアクションが見えてきました。さらに、四半期ごとに原価を見直し、円安や原油価格の変動がどのように製品原価に影響しているかを時系列で把握できる体制を整えました。これにより、外部環境の変化に柔軟に対応できる基盤が整いました。
人件費の上昇を踏まえた長期的な価格交渉の準備
次に、C社は人員確保や作業効率向上の必要性から、賃金上昇を踏まえた価格交渉を行う決断をしました。特に、労働力不足と賃金上昇の影響が中小企業のコスト構造に与える影響は非常に大きく、これに基づくコスト増を正当なものとして価格転嫁する必要がありました。しかし、C社は短期的に大きな値上げを要求するのではなく、長期的なコスト上昇に備えて少しずつ価格を調整し、取引先に負担をかけない形で交渉に臨むことにしました。
また、単なる価格交渉だけではなく、取引先との調整の幅を広げるために、納期の見直しや発注数量のまとめを提案し、コスト効率を改善するアプローチも同時に進めました。このように、価格据え置きの際には作業効率の向上を目指し、取引先にとっても納得しやすい形での交渉を行いました。
交渉結果とC社のさらなる取り組み
複数回の交渉を経て、最終的に取引先は数量のまとめには応じられなかったものの、発注リードタイムを延ばすことに同意しました。これにより、C社は製造スケジュールを最適化し、残業時間の削減と実質的なコストダウンを達成できました。この結果、C社は短期的な価格アップには至らなかったものの、経営効率化を通じたコスト管理を実現し、長期的な取引の安定を図ることができました。
まとめ:余力を生かし、長期的視点で取引先と信頼関係を構築する
C社のケースは、経営に多少の余力があるうちに、将来を見据えた価格転嫁の準備を進めた成功例です。短期的な値上げを強行するのではなく、あくまで取引先との長期的な信頼関係を重視しながら、継続的な交渉の場を確保しました。また、四半期ごとに製品別の原価計算を行うことで、円安や原油価格、賃上げなど外部要因の影響を定期的に把握し、データに基づく説得力のある交渉が可能になりました。
価格転嫁や経営改善に悩む中小企業にとって、短期的な結果を求めず、長期的な視点で自社と取引先の双方が満足できる形を模索することは、経営の安定を図るために非常に重要です。C社の事例は、価格転嫁支援の専門家である経営コンサルタントのサポートが、企業の成長と取引関係の維持に役立つ好例といえるでしょう。